河合隼雄著「ユング心理学入門」
河合隼雄(かわいはやお)先生
1928年6月23日−2007年7月19日
心理学者。京都大学名誉教授。元文化庁長官
【解説】
難解なユング心理学を平易な言葉で自説も交えながら解説した入門書です。ユング心理学自体は古典的な心理学になっていますが、著者の散見する鋭い洞察は今でも遜色がありません。
【コメント】(岩井)
学生時代にこの本と出合い、物事を多面的に捉えることを学問的に知りました。それからユング心理学というより、河合隼雄先生の心理学的な考察を学びたいと多数の書籍を読み講演に足を運びました。
やがて河合先生が文化庁長官になられ講演等の機会が減った中、私は岩波書店で50名にも満たない会議室の様なところで、先生の講義を聴く機会を得ました。 講義3日目の最終日の講義途中の休憩時間、厚かましくも、この本にサインを頂こうとスタッフに声をかけました。スタッフの方は一瞬戸惑って「こちらにどうぞ。…ここで待っていてください」と部屋の前で待つことに。部屋の中から「…(サインを)ひとり許すときりがないから、講義後に…」と河合先生の声が聞こえてきました。しかし、スタッフに促され部屋に入るとそこに河合先生がおられ、満面の笑みで「よく読み込んでくれてるな」と関西弁で語りかけてくださいました。
その本は、当時より20年前の物で表紙はボロボロで、中は線や書き込みでいっぱいでした。その本をみて先生は何かお感じになり部屋に通してくださったのかもしれません。
恐縮しながらも、サインの他にひと言を書いていただけますか、とお願いしたら「そういうのが1番困るんだよ…」と厳しい顔で言われました。慌てて私は「失礼しました!お名前をお願いします!」と言ったのにも関わらず意に返さず、本を見返したり「うーん」とおっしゃって、暫くその一言を考えてくださっていました。長い沈黙が続く中、私が「…この本を読ませて頂いて、先生にお会いするまで20年もかかってしまいました…」とぽつりと言ったら、河合先生は私の方をぱっとみて「それだっ!」と笑顔になり、そのひと言を書いてくださいました。
自己実現には「時」がある。河合隼雄
私の中でその言葉はとても深く心に響きました。また、突然にも関わらず、ひとりの人間にその者に合う言葉を真剣に探して頂いた河合隼雄先生の姿勢にただただ頭がさがりました。 どんなに地位が高くなっても多忙でも、ひとりの人間に真剣に向き合う姿は、いろいろな著書の中で河合隼雄先生が示された臨床姿勢となんらぶれずに変わらないことに驚きと深い学びがありました。